5 給与所得

 給与所得とは、勤務先から受け取る給料、賃金、ボーナスなど、労働の対価として受け取る所得をいいます。なお、1ヶ月15万円以下の通勤手当や、通常必要な範囲の出張費などには所得税が課税されません。
 また、勤務先からの無利息や低利による金銭の借り入れや、無償や低額による資産の譲受など、経済的利益を得た場合は、労働の対価ではなくても給与所得となります。

こんな過去問が出る!

会社員が勤務先から無利息で金銭を借り入れたことにより生じた経済的利益は、雑所得となる。

▶︎ 解答はクリック

答え:×
勤務先から経済的な利益を得た場合、給与所得として課税対象となる。
(2023年9月学科)

5-1 給与所得の計算式

● 給与等による収入金額-給与所得控除額

5-2 給与所得控除

 給与所得の計算では、実際にかかった必要経費ではなく、みなし経費とされる給与所得控除額を差し引きます。

▼ 給与所得控除額(2020年分以後)
給与等の収入金額 給与所得控除額
162.5万円以下 55万円
162.5万円超180万円以下 収入金額×40%-10万円
180万円超360万円以下 収入金額×30%+8万円
360万円超660万円以下 収入金額×20%+44万円
660万円超850万円以下 収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)
▼ 給与所得の計算例

【給与等による収入が500万円の場合】

(1)給与所得控除額を計算します
=500万円×20%+44万円=144万円

(2)給与収入から給与所得控除を差し引きし、給与所得を計算します
=500万円-144万円=356万円

5-3 所得金額調整控除

 2018年(平成30年)の税制改正によって給与所得控除の見直しが行われていますが、これにより負担増が生じないように所得金額調整控除が新設されています。
 所得金額調整控除には2種類あり、子育て世帯・介護世帯の給与所得者に適用されるものと、給与所得と公的年金所得の両方の所得がある人に適用されるものがあります。

▼ 子育て世帯・介護世帯の給与所得者向けの所得金額調整控除
要件 ● 給与収入が850万円超の居住者で、かつ、次のいずれかに該当する者

(1)自身が特別障害者

(2)23歳未満の扶養親族を有する者

(3)特別障害者である同一生計配偶者もしくは扶養親族を有する者

※ 年末調整でこの控除の適用を受ける場合、「所得金額調整控除申告書」の提出が必要

所得金額調整控除額 ● (給与収入(上限1,000万円)-850万円)×10%
▼ 給与所得と公的年金等の両方の所得がある人向けの所得金額調整控除
要件 ● 給与所得控除後の給与等の金額および公的年金等にかかる雑所得の金額の合計額が10万円を超える者
所得金額調整控除額 ● 給与所得控除後の給与等の金額(上限10万円)+公的年金等にかかる雑所得の金額(上限10万円)-10万円)
こんな過去問が出る!

納税者本人の給与等の収入金額が850万円を超えており、納税者本人に公的年金等に係る雑所得の金額はない場合、納税者本人が特別障害者であっても所得金額調整控除の適用対象とならない。

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答え:×
対象となる。なお、控除額の計算式は次のとおりである。{給与等の収入金額(1,000万円超の場合は1,000万円)-850万円}×10%
(2022年5月学科)

こんな過去問が出る!

納税者本人の給与等の収入金額が850万円を超えており、納税者本人に公的年金等に係る雑所得の金額はない場合、納税者本人が年齢70歳以上の扶養親族を有していても所得金額調整控除の適用対象とならない。

▶︎ 解答はクリック

答え:〇
問題文のとおり。問題文のケースでは、23歳未満の扶養親族を有する者か、特別障害者である同一生計配偶者もしくは扶養親族を有する者であれば適用対象となる。
(2022年5月学科)

5-4 給与所得の課税方法

 給与所得者が特定支出をした場合、その年の特定支出の額の合計額が「その年中の給与所得控除額の2分の1」を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができます。

▼特定支出

● 通勤費:通常必要であると認められる通勤のための支出

● 転居費:転勤に伴う転居のための通常必要であると認められる支出

● 研修費:職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出

● 資格取得費:職務に直接必要な資格を取得するための支出

● 帰宅旅費:単身赴任などの場合で、その者の勤務地または居所と自宅の間

● 勤務必要経費:下記の支出の中で、職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がなされたもの
(1)図書費 (2)被服費 (3)交際費等

5-5 給与所得の課税方法

● 総合課税

※ 会社員の場合、毎月の給与支給時には所得税が源泉徴収(いわゆる天引き)され、年末に過不足を清算する年末調整が行われているため、通常は確定申告を行う必要はありません。しかしながら、以下のいずれかに該当する場合には確定申告を行う必要があります

▼確定申告を行う必要があるケース

● その年の給与等の金額が2,000万円超の場合

● 給与所得以外の所得があり、給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える場合

● 2ヵ所以上から給与等の支払を受けている場合

● 医療費控除、寄附金控除、雑損控除の適用を受ける場合

● 住宅借入金等特別控除の適用を受ける場合(初年度のみ)

● 配当控除の適用を受ける場合

6 譲渡所得

譲渡所得とは、土地・建物といった不動産や、株式などの有価証券、その他の資産の譲渡による所得をいい、一般資産の譲渡、株式等の譲渡、土地・建物等の譲渡の3つに区分されます。このうち、一般資産の譲渡と土地・建物等の譲渡は、取得してから譲渡までの所有期間によって短期譲渡長期譲渡の2つに分けられます。

6-1 譲渡所得の基本計算式

● 譲渡による収入金額-(取得費+譲渡費用)

※ 実際には、譲渡した資産および所有期間により、計算式や課税方法が異なります

▼ 譲渡所得の具体例

● 土地・建物・株式以外の一般資産の譲渡の場合
譲渡所得=譲渡による収入金額-(取得費譲渡費用)-特別控除額50万円


● 株式等の譲渡の場合
譲渡所得=譲渡による収入金額-(取得費譲渡費用+借入金による利子)


● 土地・建物等の譲渡の場合
譲渡所得=譲渡による収入金額-(取得費譲渡費用


※ 居住用財産(マイホーム)を譲渡した場合には、3,000万円特別控除や軽減税率、買い換えの特例といった特例があります(詳しくは不動産の課目で学習します)

6-2 取得費と譲渡費用
取得費 ● その資産を購入したときの価格+その資産を取得するために要した費用(不動産会社等へ支払う仲介手数料や登録免許税、印紙税など)が取得費となります

※ 取得費が不明の場合には、譲渡収入金額の5%を概算取得費として計上することが認められています

譲渡費用 ● 資産を譲渡するために要した費用(不動産会社等へ支払う仲介手数料や印紙税など)が譲渡費用となります
6-3 譲渡所得の課税方法

 譲渡所得は、上記計算式にあるように、一般資産の譲渡、株式等の譲渡、土地・建物等の譲渡の3つに区分されます。
 このうち、一般資産の譲渡と土地・建物等の譲渡に関しては、取得してから譲渡までの所有期間によって短期譲渡長期譲渡の2つに分けられます。

  所有期間による区分 判断の基準 課税区分
一般資産 短期譲渡所得 取得の日から譲渡した日までが5年以内 総合課税
長期譲渡所得※ 取得の日から譲渡した日までが5年
株式等 なし なし 申告分離課税
土地建物等 短期譲渡所得 譲渡した日の属する年の1月1日時点の所有期間が5年以内 申告分離課税
長期譲渡所得 譲渡した日の属する年の1月1日時点の所有期間が5年

※総合課税の長期譲渡所得については、所得金額の2分の1を他の所得と合算します

▼ 分離課税の税率
株式

 

20.315

(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
土地
建物等
分離
短期

39.63

(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
分離
長期

20.315

(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
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